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これまでのコラム

第4回 Sの巻 その2 「電気自動車オンリー論」批判 (1)  所長 藤本 隆宏  2022年5月30日 

2022年5月30日

Sの巻 その2
「電気自動車オンリー論」批判 (1)


一般社団法人経営研究所
所長 藤本 隆宏

平時の話に戻る。「大きなSDG」のS(サステナブル)、特に地球温暖化と乗用車について考える(商用車はより難物だが別の機会に)。

自動車の地球温暖化対策は、電気自動車のみが是で、その他は否だ、という「電気自動車(BEV)オンリー論」に私は反対だ。目的(地球温暖化防止)と手段(電気自動車普及)が混同され、論理の混乱があり、要するに筋の悪い議論だからである。お断りするなら、私は電気自動車の早期普及は強く肯定する。つまり、私が否定するのは、BEVではなく、BEVオンリー論である。ちなみに、拙宅の車庫には何年も前から充電用の電気が来ている。

言うまでもなく、目的は21世紀半ばにおける地球温暖化の完全制止。BEV等々はその手段だ。そして約30年後に上記目的を達成するには、2020年代の努力集中と中間目標達成、例えば生産も運転も含む乗用車由来のCO
2発生量の30%近い削減が必須だろう。では、どんな手段ミックスで実現するか。

(A)電気自動車抜きでは無理だ, (B)電気自動車だけでは無理だ, (C)電気自動車以外はダメだ ― この3論のうち、私が是とするのは(A)と(B)、否とするのは(C)のBEVオンリー論だ。(C)は、この長期問題に対し、特定手段に尚早に絞り過ぎ、故に戦略論の基本に反する悪手だ。ことは重大、勢いやスローガンで論じてもらっては困る。

少なくとも当面は、BEV、ハイブリッド車、内燃機関改良、燃料革新から行動変容まで、あらゆるCO
2削減手段を総動員する「総力戦」が正解だ。それは、簡単な排出量計算や科学的データで分かる。
次回、その説明を続ける。

第3回 「戦艦ポチョムキン」 所長 藤本 隆宏 2022年3月4日 



戦艦ポチョムキン

一般社団法人経営研究所
所長 藤本 隆宏

今回は電気自動車の話の予定だったが、急遽変更する。
ロシア軍のウクライナ侵攻とその後の惨事を知り、最初に思い出したのは、ソ連の映画監督エイゼンシュテインの名作「戦艦ポチョムキン」(1925年)だ。現在は著作権が切れ、ネットに山ほどある。個人的には、ショスタコーヴィチ交響曲第5番付きで、最後の転調が画面とぴったり合っている1976年Sovexportfilm版をお勧めする。

帝政ロシア末期、日露戦争中の1905年、腐ったスープがきっかけの戦艦内の反乱、黒海の港町オデッサでの帝政ロシア兵による市民虐殺(モンタージュ技法で有名なオデッサの階段)、ポチョムキン討伐に向かったロシア黒海艦隊の寝返りと合流、帝政ロシア崩壊の暗示、等々を描いた空前絶後の無声映画だ。

前置きが長すぎたが、舞台であるオデッサは、ウクライナにある。大階段は今も残る。時代背景から、ソ連礼賛でもあったこの映画のテーマは、上層部の変調、軍の士気低下、その一部の離反、同調する市民の虐殺、より多くの離反による内部崩壊-であったと思う。

かの地ではなぜか、この同じテーマが繰り返されるように見える。ハンガリー動乱、プラハの春、アフガン戦争、そしてソ連の崩壊。皮肉にもポチョムキンとよく似た流れではなかったか。

そして、ソ連崩壊後に成立したロシア連邦で、デジャヴとも言うべき事象の連鎖が、また起こっている。なぜ繰り返されるのか。結末は今回も同様なのか。日本の我々に何ができるのかを考え続けるしかない。

第2回 「Sの巻 その1 大きなSDGの総合解を解け」 所長 藤本 隆宏 2022年1月7日 


Sの巻 その1
大きなSDGの総合解を解け


一般社団法人経営研究所
所長 藤本 隆宏

前回、軍師的人材が必要と述べた。高高度において広視野の戦略的思考、地上において「重要な細部」を見切るオペレーション知識、この二つを連続的につなぐことのできる人材である。

まず高高度を見る。軍師人材は、サステナブル・デジタル・グローバルという「大きなSDG」の方程式を解き、全体最適解を出す。これらをバラして個々に対しキャッチーな発言をすれば短期的には受けるが、それは流行と共に消える部分最適解に過ぎない。

まずS(サステナビリティ)。国連が掲げるSDGsの17ゴール169ターゲットは全て重要で、多くが具体的目標値を伴う点が素晴らしい。しかし、これらは羅列的でもある。では17目標のさらに上の大目的は何か。常識的に言えば「不条理な理由で死ぬ人、悲惨な人生を送る人を地球上から一人でも減らすこと」か。

この大目的に対して、17目標は独立してはおらず、その間にトレードオフもバランスも存在する。従って、17を暗記し、貢献できそうなものを見つけてアピールし、どれか1目標の達成を絶対優先すればよいのではない。
例えば、地球温暖化問題の一手段として電気自動車は有効かつ重要だが、他方で、大災害時に備え複数のエネルギー源を地域に確保することも重要だ。SDGsのうち1目標のみを分離して絶対達成(したがって絶対優先)を叫ぶ前に、大目的に鑑みバランスを考えるべきではないか。

天下三分の計も然りだが、高高度においては、人よりさらに高いところから対極的に見るのが、軍師の目であろう。

第1回 「産業の軍師出でよ」 所長 藤本 隆宏 2021年11月1日 


産業の軍師出でよ

一般社団法人経営研究所
所長 藤本 隆宏

2020年代、世界の産業はどのように進化するだろうか。
私は過去20年数年、産業現場の組織能力(Capability)の進化、製品など人工物の設計思想Architecture)の進化、そしてこの2つの動態的な適合が各国・各地域の各産業の競争力(Performance)の長期的趨勢に影響するとみる「CAPアプローチ」および「設計の比較優位説」に基づき、様々な産業現象の過去・現在・未来の説明を試みてきた。なかなか使い勝手が良いので、私はこのCAPアプローチを多用してきた。

これを2020年代に応用するとどうなるだろうか。
結論から言うと、日本の企業・産業にとって苦戦の連続であった過去30年、サイバー空間でメガプラットフォーマに置いていかれた2010年代を経て、次の10年はようやく、戦いようによっては日本企業にとって面白い展開もある、という局面になってきた。その詳細は次回に論じたい。

しかし、うまくやらなければ、また負けるということも予想できる。そこで今必要なのは、世界の大局判断にも現場の局地戦にも強く、大きな潮目を読み切り、頭も体も動く、いわば産業の「軍師」タイプの人材だと私は考える。

彼らが直面するのは、サステナブル(Sustainable)、デジタル(Digital)、グローバル(Global)の3大潮流が複雑に絡み合う、いわば「大きなSDG」のややこしい時代である。そこで必要なのは、ぶれない座標軸を持ち、流行に振り回されず、大きなSDGの連立方程式を解き切る上記の人材である。現世代・次世代から、そうした軍師的才能の続出を期待したい。
                                                        

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